多汗症の薬は本当に効く?症状別に見る治療薬の選び方
2025/08/13
多汗症の薬には、部位や症状に応じた多彩な選択肢があります。
この記事では皮膚科医の視点から、内服薬・塗り薬・漢方・市販薬の効果と違いを解説します。
顔汗や手汗などに悩む方も、薬の正しい使い方を知ることで、自分に合った治療法を見つけやすくなります。
Contents
1. 多汗症に悩む人がまず知っておきたいこと
汗が人より多く出る。それだけのことと思われがちですが、多汗症に悩む方にとっては、日常生活や人間関係に大きな影響を与える深刻な問題です。
「握手が恥ずかしい」「制服のシャツに汗じみができる」「化粧がすぐ落ちる」、こうした悩みを抱える患者さんが、えいご皮フ科にも日々来院されています。
多汗症とは、必要以上に汗をかいてしまう状態を指します。
暑さや運動に関係なく、手のひらや足の裏、脇、顔などに大量の汗が出ることが多く、原因が特定できない一次性局所多汗症が最も多いタイプです。
日本人の約5%が該当すると言われており、決して珍しい症状ではありません。
汗は体温調整に必要な働きですが、コントロールできない汗が生活の質を下げてしまう場合、治療の対象になります。
実際、学校や仕事、恋愛や外出を避けるようになる方も少なくありません。
自然治癒は困難で、場合によっては精神疾患へと繋がる可能性のある病気です。
多汗症は、正しい知識と適切な治療で改善できます。
薬による治療法も進化しており、2020年に日本で保険適応となったエクロックゲルをはじめ、内服薬や塩化アルミニウム外用剤、さらには漢方薬やサプリメントなど選択肢も広がっています。
症状の程度や出る部位に応じて、最適な方法を選ぶことが大切です。
「汗を止める薬なんて本当にあるの?」「皮膚科に行くのは大げさ?」と感じている方こそ、まずは医師に相談して自分の状態を知ることから始めてみてください。
医師に相談すれば、あなたに合った対処法が見つかるはずです。
2. 薬で治療する方法とその選択肢
多汗症の治療には、症状の程度や発汗部位に合わせて、さまざまな薬が使われます。
主に「飲み薬(内服薬)」と「塗り薬(外用薬)」があり、それぞれに特長があります。
ここでは、代表的な薬についてわかりやすくご紹介します。
2-1. 【内服薬(飲み薬)】効果・種類・入手法
飲み薬は、脳や神経に作用して全身の発汗をおさえる仕組みで、特に顔や頭部など広い範囲の汗に悩む方に向いています。
- 臭化プロパンテリン(商品名:プロバンサイン)
もっともよく使われる内服薬で、効果が安定しており顔汗にも有効です。 - オキシブチニン
本来は膀胱の薬ですが、汗をおさえる作用もあり、一部で使われています。 - ソリフェナシン
比較的新しい選択肢で、副作用が少ないとされます。ただし、口のかわき、便秘、眠気などの副作用が出やすいため、日常生活への影響を確認しながら使う必要があります。
これらの薬は基本的に皮膚科などの医療機関で処方されるため、ドラッグストアなどでは購入できません。
2-2. 【外用薬(塗り薬)】ワキ・手足・顔への使い方と注意点
「手のひらがいつもびしょびしょで、紙がふやけてしまう」といった手汗の悩みには、外用薬が第一選択となります。
塗り薬は、汗が出る汗腺に直接作用して汗の量をおさえる働きがあります。
- エクロックゲル(保険適応)
ワキ専用のゲルタイプ。2020年に登場し、使いやすさと効果の高さから注目されています。 - ラピフォートワイプ(保険適応)
使い切りタイプのワイプで、外出先でも簡単に使えるのが魅力です。 - アポハイドローション(手足向け)
保険適応外ですが、手汗や足汗に広く使用されており、えいご皮フ科でも希望される方が多い薬です。 - 塩化アルミニウム液
比較的安価で、汗腺の出口をふさいで発汗を抑える外用薬です。
外用薬は部位ごとの使い分けが大切です。
たとえば顔に塗る場合、目や口のまわりを避ける必要があったり、肌が敏感な方には刺激となることもあります。
使用前に医師と相談し、正しい塗り方を確認することが大切です。
薬には向き不向きがあるため、「自分にはどれが合うのか?」と悩んだときは、専門医に相談することをおすすめします。
3.市販薬と処方薬の違い
多汗症に悩んだとき、「まずはドラッグストアで買えるもので何とかしたい」と考える方は多いです。
市販薬は手軽に購入できますが、症状の程度や部位によっては、皮膚科で処方される薬の方が効果的な場合が多いです。
3-1.ドラッグストアで買える市販薬とサプリの特徴
市販薬の魅力は、診察を受けなくてもすぐに購入できることです。
多くは「制汗剤」や「デオドラント」として販売されており、塩化アルミニウムを含むローションやスプレータイプが代表的です。
汗腺の出口をふさぐことで発汗をおさえるしくみで、ワキや手のひら、足などに使いやすいのが特徴です。
また、「汗をかきにくくする体質改善」を目的としたサプリメントも増えています。よく見かける成分には以下のようなものがあります。
- シソ葉エキス:抗酸化作用があり、ニオイ対策にも
- ボタンピやシャクヤク:漢方由来で、汗の出方を穏やかにすると言われる
- ビタミンB群:自律神経を整えるサポート成分
ただし、市販の制汗剤やサプリは、重度の多汗症には効果が不十分なことも多く、症状のコントロールが難しいケースでは、自己判断に頼らず専門医の診察を受けることが大切です。
3-2.皮膚科で処方される薬との違いと受診の目安
皮膚科では、症状に合わせた医療用の薬を処方します。市販薬と違って、薬の有効成分の濃度や効果の持続性が高いです。
えいご皮フ科では、患者さんの症状やライフスタイルを聞き取りながら、最適な治療法を選択しています。
たとえば、ワキ汗には保険適応の「エクロックゲル」や「ラピフォートワイプ」、顔汗には「臭化プロパンテリン(プロバンサイン)」などの内服薬が効果的です。
手汗には「アポハイドローション」や「塩化アルミニウム液」を使うことが多く、これらは市販では手に入りにくい薬です。
受診の目安としては、以下のような状態があれば皮膚科への相談をおすすめします:
- 汗が日常生活に支障をきたしている
- 市販薬を試しても効果を感じない
- 汗の量が極端に多く、原因がわからない
- 顔や頭など市販薬では対応しにくい部位の発汗がある
「こんなことで受診してもいいのかな?」と迷う方もいらっしゃいますが、多汗症はれっきとした治療対象の症状です。
一人で悩まず、専門医に相談することが、改善への近道になります。
4.顔汗・手汗・全身の悩みに応じた薬の選び方
多汗症の症状は、出る場所によってつらさの種類も異なります。
たとえば顔汗は人目が気になりますし、手汗は日常の作業や人とのふれあいを妨げます。
発汗の部位に合った薬を正しく選ぶことで、効果的に対処することができます。
ここでは顔、手、足、ワキなどの部位別におすすめの治療薬と注意点をご紹介します。
4-1.顔汗に効果的な薬と注意点
メイクをしても、汗で数分で落ちてしまう。これは、実際に多汗症で悩んでいた30代女性の声です。
顔汗は特に目立ちやすく、人前に立つ仕事をしている方にとって深刻な悩みになります。
顔汗への対策として、まず有効なのが内服薬です。
代表的なのは以下の薬です。
- 臭化プロパンテリン(プロバンサイン):交感神経に作用し、全身の汗をおさえる
- オキシブチニン:副作用に注意が必要ですが、顔汗にも使用される
塗り薬については、顔は皮膚が薄くて敏感な部位のため、塩化アルミニウム液などを使う際には必ず医師の指導が必要です。
赤みやかぶれのリスクがあるため、自己判断での使用は避けましょう。
また、顔は感情や緊張の影響を受けやすい場所でもあります。
治療とあわせて生活リズムの見直しや、ストレスケアも重要なポイントとなります。
4-2.手汗・足汗・ワキ汗など部位別対策
「書類に汗がにじんで字が読めなくなる」「革靴の中がいつも湿っている」「シャツに大きな汗じみが…」など、部位によって困る場面は異なります。
えいご皮フ科では、それぞれの部位に合った治療を選んでいます。
部位 | よく使われる薬 | 特徴と注意点 |
手のひら | アポハイドローション、塩化アルミニウム液 | 効果は高いが刺激感に注意。手荒れしやすい人は事前相談を。 |
足の裏 | 塩化アルミニウム液 | ニオイの改善にも有効。就寝前の使用が効果的。 |
ワキ | エクロックゲル、ラピフォートワイプ | 保険適応。朝1回の使用で日中の発汗を軽減。 |
とくにエクロックゲルは、ワキ汗に悩む多くの方に使われており、アプリケーター式で手を汚さずに塗れる点も好評です。
アポハイドローションは手汗・足汗への効果が高く、保険適応外ですが、日常生活への影響を軽減する重要な手段として選ばれています。
発汗の場所や量、ライフスタイルによって最適な薬は変わります。何を選べばいいのか迷ったときは、えいご皮フ科のような専門医に相談することが、症状改善への近道です。
部位ごとに「正しく、使いやすく」薬を選ぶことが、快適な毎日につながります。
5.多汗症に使える市販アイテムの実力とは?
最近では、ドラッグストアや通販で手軽に購入できる多汗症向けの商品が増えています。
とくに制汗クリームやジェル、飲むタイプのサプリメントは、忙しい毎日の中で自分のペースで取り入れやすい対策法として注目されています。
5-1.制汗クリーム・ジェル
塗るタイプの制汗剤は、汗腺に直接アプローチできるため、ワキや手足などピンポイントで使いたい部位に適しています。
商品タイプ | 特徴 | 推奨使用部位 |
塩化アルミニウム配合ジェル | 汗腺の出口をふさぎ、強力に汗を抑える | 手・足・ワキ |
敏感肌用ミルクタイプ | アルコールフリーで低刺激 | 顔・首まわり |
ロールオン式ジェル | 朝の外出前に手軽に使える | ワキ・背中 |
こうした市販アイテムは、軽度の多汗症や一時的な汗対策としては十分活躍します。
ただし、肌に刺激を感じた場合は使用を中止し、専門医に相談してください。
5-2.飲むタイプ市販薬・サプリの選び
「全身の汗をどうにかしたい」「顔汗の原因が体の中から来ている気がする」という方には、飲むタイプの対策も選択肢となります。
市販のサプリメントには、自律神経やホルモンバランスを整える成分が含まれていることが多く、内側から汗の出方をサポートする仕組みです。
・シソ葉エキス:発汗とニオイの抑制に関与
・ボタンピ・シャクヤクなどの漢方由来成分:体質改善を目指す
・GABA・テアニン:ストレス性の発汗にやさしく働きかける
ただし、あくまでも“補助的なケア”として考えることが大切で、医薬品のような即効性は期待できません。
自分に合った市販アイテムを選ぶためには、目的や使用部位を明確にし、製品の成分表示をよく確認することが重要です。
そして、効果を感じにくい場合は、専門医のアドバイスを受けながら、治療との併用を検討してみてください。
体質や症状に応じて適切な方法を選ぶことが、より確実な改善につながります。
6.漢方薬で体質改善を目指す治療法
「汗っかきは体質だから仕方ない」とあきらめている方も多いですが、漢方薬を用いた治療では、その“体質そのもの”に働きかけるアプローチが可能です。
とくに、冷えやむくみ、自律神経の乱れが背景にある多汗症には、漢方治療が効果を発揮することがあります。
ここでは、漢方が選ばれる理由と代表的な処方について解説します。
6-1.「漢方で多汗症が治った」と言われる理由
SNSや体験談で「漢方で多汗症が治った」と語られる背景には、漢方薬が“汗だけでなく体全体のバランス”を整える視点で作られている点があります。
漢方医学では、汗は「気」と「水」の流れの乱れで生じると考えられています。
- 気虚(ききょ)タイプ:体力がなく、すぐ疲れて汗をかく
- 湿熱(しつねつ)タイプ:体に熱がこもり、顔や体がほてるように汗をかく
- 自律神経の乱れ:ストレスなどで汗の調整がうまくいかない
このように、単に汗を止めるのではなく、“なぜ汗が出ているのか”という根本に目を向けられる点が、漢方が評価される理由です。
6-2.防已黄耆湯など代表的な処方とその効果
多汗症に対してよく使われる漢方薬には、体質や症状ごとにいくつかの選択肢があります。
漢方名 | 主な適応 | 特徴と効果 |
防已黄耆湯(ぼういおうぎとう) | ワキ汗・足汗・肥満傾向 | 体の水分バランスを整え、余分な汗を減らす。疲れやすい人にも◎ |
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) | 顔汗・上半身の多汗 | 体の熱を冷まし、ほてりによる汗を抑える。のぼせやすい人に |
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) | ストレス性の多汗 | 自律神経を整え、緊張による汗に効果的 |
これらはすべて医師の診察にもとづいて処方されるため、自己判断での使用はおすすめできません。
とくに複数の症状が重なる場合、誤った処方は逆効果になることもあります。
「体質から整えたい」「薬の副作用が気になる」という方にとって、漢方は一つの有力な選択肢です。
漢方での治療は、焦らず、じっくり取り組むことが大切です。
自分のからだに向き合いながら、無理のない方法で改善をめざしていきましょう。
7.多汗症治療でよくある誤解と正しい知識
「汗は体に必要なものだから、無理に止めるのはよくないのでは?」と心配される方は少なくありません。
しかし、治療で汗を“適切にコントロールする”ことは、決して体に悪いことではありません。
正しい知識を持つことで、安心して治療に取り組めるようになります。
7-1.「汗を止める=体に悪い?」の真実
よくあるのが、「薬で汗を止めたら、体に熱がこもって危険では?」という疑問です。
たしかに、発汗は体温を調整する大切な働きの一つです。
ただし、多汗症の治療で使用する薬は、必要な汗まで完全に止めてしまうわけではありません。
たとえば、エクロックゲルは塗布した部位にのみ作用するため、局所的に抑えることができます。
一方、内服薬は全身に作用しますが、医師が適切な用量を調整することで、必要な発汗機能を保ちつつ、原因部位の発汗を軽減することが可能です。
また、体温が上がったときに必要な発汗反応は、治療後もきちんと残ります。
実際、治療を受けた患者さんの多くが「日常生活は快適になったが、運動中の汗はちゃんとかけている」と話されています。
重要なのは、“出すべき汗”と“過剰な汗”を区別することです。
前者は体のために必要ですが、後者は日常の支障やストレスの原因になります。
専門医の管理のもとで治療すれば、体の働きを損なうことなく、安全に汗を抑えることが可能です。
7-2.医師に相談すべきタイミングと診察の流れ
多汗症は“命に関わる病気”ではありませんが、日常生活に与える影響はとても大きい症状です。
「これくらいで病院に行ってもいいのかな?」とためらう方もいますが、次のような場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。
- 毎日の着替えや化粧直しに時間がかかっている
- 書類やスマートフォンが手汗でぬれてしまう
- 人前に出るのが不安になり、生活に影響が出ている
- 市販の制汗剤やサプリでは効果を感じられない
皮膚科では、初診時に汗が気になる部位や、日常生活で困っていることを丁寧に聞き取り、その方の症状や体質に合わせた治療法を提案しています。
必要に応じて、保険適応の外用薬や内服薬、さらには漢方薬の併用を検討することもあります。
診察は予約制のことが多く、治療方針についても医師と相談しながら決めていきます。
「とにかく話を聞いてほしい」といった気持ちだけでも構いません。
症状が悪化する前に、早めに相談できる皮膚科を見つけることが大切です。
多汗症は治療の対象であり、がまんするものではありません。
正しい知識にもとづいて、負担の少ない方法から取り入れていきましょう。
8.よくある質問
Q1.多汗症に効く薬はありますか?
A.はい、あります。
多汗症の治療には、内服薬・外用薬・漢方薬などが使われます。
たとえば顔や全身の汗には「臭化プロパンテリン」などの内服薬、ワキには保険適応の「エクロックゲル」や「ラピフォートワイプ」、手足には塩化アルミニウム液やアポハイドローションなどが有効です。
症状や部位に合わせて薬を使い分けることが大切です。
Q2.多汗症は障害者手帳の何級になりますか?
A.多汗症そのものは、原則として障害者手帳の交付対象ではありません。
ただし、重度の自律神経失調症や他の疾患による多汗があり、日常生活に著しい制限がある場合は、その原因疾患によって交付の可能性があります。
詳細は自治体の福祉課や医師に相談することが必要です。
Q3.汗かきすぎるのはどうしたらいいですか?
A.まずは汗の出る部位や量、きっかけ(緊張・気温・運動など)を記録してみましょう。
そのうえで、皮膚科に相談することをおすすめします。
市販の制汗剤やサプリでは対応しきれない場合、保険適応の治療薬もあります。
放置せず、自分の生活に支障があるなら専門医の診察を受けましょう。
Q4.汗をたくさんかくのは自律神経が原因ですか?
A.自律神経の乱れが原因のケースもあります。
とくに緊張やストレスが関係する「精神性発汗」は、自律神経の過剰な反応によるものです。
ただし、すべての多汗症が自律神経の問題とは限りません。
体質やホルモンの影響、皮膚や神経の異常なども関係するため、まずは医師による診断が重要です。
Q5.多汗症はどうやって治すの?
A.治療は発汗部位や重症度によって変わります。
ワキ汗には外用薬、顔や全身の汗には内服薬、手足には塩化アルミニウム液などが使われます。
さらに、体質や背景に合わせて漢方薬やボトックス注射を選ぶこともあります。
えいご皮フ科では、症状に合わせた治療をオーダーメイドでご提案しています。
Q6.汗を減らす飲み薬はありますか?
A.はい、あります。代表的なのは「臭化プロパンテリン」や「オキシブチニン」などの抗コリン薬です。
これらは神経伝達を調整し、全身の発汗をおさえる働きがあります。
副作用として口のかわきや眠気が出ることもあるため、使用には医師の診察が必要です。
汗の量や生活への影響に応じて処方されます。
まとめ
多汗症は治療可能な症状です。
ひとりで抱え込まず、薬や治療法について正しい知識をもって向き合うことが大切です。
気になる症状がある場合は、早めに皮膚科で相談してみましょう。