笑顔のパワー
時に、患者さんが待たされることがあります。
なるべくスムーズにするようにはなっていますが、やはり待ち時間がストレスになることもあるでしょう。
こんな時、「どのくらい待つのでしょうか」と聞いて、杓子定規に「もう少しお待ちください」と対応されるだけでは、冷たく感じることもあるはずです。
特に気難しい患者さんの場合はなおさらです。
これは、元大手メーカー勤務だった男性Aさんの話です。
長らく通院されていましたが、ときどき小言をチクリと言うような方でした。
当初は「ステロイドは絶対に嫌や」などともおっしゃっていました。
こんな調子で、ドクターやナースとの距離感もなかなか縮まりませんでした。
ある日、何人もが廊下のイスで待たれている中にAさんもおられました。
少しイライラされている素振りが垣間見えたかもしれません。
その時、ベテランのナースが、Aさんに対して、いつもにも増してニッコリとした微笑みでお名前を呼びかけました。
呼びかける直前の彼女の心の中は、「Aさん、たくさんの人が待っている中で、あなたがそこにいるのを私はちゃんとわかっている」という気持ちだったといいます。
そこで、いつも以上の笑顔で、座っているAさんの目の前まで、足早に一直線に駆け寄り、お名前を呼んで話し掛けました。
そうすると、その次から、今までのシコリのようなものが少しずつ解きほぐされて、やがて身の上話もされるようになっていきました。
後日談として、ご本人から、あの時の「笑顔の呼びかけ」がきっかけだったことを教えていただきました。
絶えず笑顔での対応を心掛けていますが、こちらが忙しかったり、患者さん側の虫の居所が悪かったりすると、やはり表面的な関係だけで終始してしまうこともあるでしょう。
でもこの例は、一瞬の微笑みが今までの関係性を好転させたのですね。
こういったグッドタイミングは多くはないかもしれませんが、常日頃の振る舞い次第で、天の配剤が時々働くことがあるようです。
余談ながら「天の配剤」という言葉は、何か神様がお医者さんのような感じがしますね。
天の上の方か、人々がうまくいくように適切な薬を出して見守ってくれているというイメージでしょうか。
実は、奥様を亡くされていて、寂しくされていたことも判明しました。
当然のことですが、肌トラブルで見せていただく一面は氷山の一角であり、その裏には、患者さんそれぞれのふだんの暮らしがあります。
しかし、その日常の部分も含めてトータルで、人生に笑顔をもたらせるようにドクター・ナース・メディカルスタッフ全員でサポートさせて頂きたいと考えています。