芸術は長く、人生は短し

この言葉、どこかでお聞きになったことがあるでしょうか。

一般的には「人の一生は短いが、芸術作品は作者の死後も後世に残る」
といった意味で理解されています。

ただ、元々の意味は少し違うようです。
どうやら、古代ギリシャの医師ヒポクラテスの言葉らしく、
ヒポクラテスといえば、今から2400年前ぐらいの人です。
現代でも尊敬されている、いわゆる医学の父です。

医者としての彼の発言は、「医術をマスターするには長い月日が必要と
なるので、たとえ人生は短くても、一生勉強し続けなければならない」
といった意図だったようです。

時代を経て、「医術」から「芸術」へ、いつの間にか変化したんですね。
英語だと、Art「アート」。語源的には、ラテン語の「アルス」で、
「技術」「技能」といった意味だったようです。
お医者さんの「技」は、「アート」の面もあるということもかもしれません。

彼は、他にも、たくさん名言を残しています。例えば、
「人は自然から遠ざかるほど病気に近づく」
「心に起きることは全て体に影響し、体に起きることもまた心に影響する」
など多数あります。

彼は、それまでの迷信や呪術から医学を科学的に発展させ、なおかつ、
医療者に高い倫理性を求めたそうです。「患者のプライバシー保護」や
「医学教育における徒弟制度の重要性」など、現代に通じる内容です。

当クリニックでも、このヒポクラテスの教えが生きています。
我々の仲間として新しく入られたドクター・ナースには、「えいご皮フ科」の
一員として、まずは研修させていただいています。

N先生もその一人。彼は、畑違いの分野の勤務医でしたが、一念発起して、
数年前、当クリニックに入っていただきました。本人の努力はもちろんのこと、
先輩医師たちによる指導もあり、今や頼もしい皮膚科の医師です。

「だいぶ慣れてきたんじゃないですか?」と聞いてみたところ、
「一筋縄ではいかないところもある」と返ってきました。

やはり、ヒポクラテスの言葉通り、皮膚科という医療も奥が深く、
内心では暗中模索しながら、より良い診察を日々求めているようです。

もちろん、患者さんの前で、そのような態度は見せません。
まず、患者さんに寄り添いながら、目指すべき方向性を示して、共有する。
しかしながら、患者さんのニーズは十人十色なので、これが難しい。

特に現代の皮膚科に求められている多くは、病を治すだけにとどまらず、
「それ以上の何か」です。それは例えば、「もっと美しくなりたい」「もっと
若々しくありたい」という高度な欲求への対応です。

「病を治す」といっても、当然簡単ではありません。症状は千差万別で、
解決法もさまざまです。そして、さらにその延長線上にある維持・予防
といったプラスアルファの期待にも応えなければなりません。

上述したヒポクラテスの「医術をマスターするには長い月日が必要」という
古代ギリシャの教えは、当クリニックで、今日も実践されています。

2021.12.23 14:10

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